【2023年最新版】ペーパーレス化のメリットとは?中小製造業向けに解説!

製造業向けにペーパーレス化を解説

現在でも紙で管理している企業が多い

 前回、生産管理システム導入の機能とメリットについてご案内しました。今回からは皆さんの関心が高いと思われるテーマについて、一つずつ深掘りして行きたいと思います。

 製造業の課題解決を考える時に、必ずと言っていいほど最初に挙げられるテーマがペーパーレス化ではないでしょうか。デジタル化時代は、データ活用による効率的な工場運営や改善が必要不可欠であり、その取っ掛かりとしてペーパーレス化がまず検討されます。本稿でも、まず、ペーパーレス化について考えてみましょう。

 近年の工場は、中小製造業においても、DX推進の流れを受けて、自動化設備やロボットをはじめとして、最新のICT機能を搭載した省力化機器を積極的に導入するケースが多数見られます。こうした、デジタル技術の活用によって生産性の向上に努めているケースがある一方、依然として紙を使った業務管理も残っています。設計図、展開図、帳票、日報をはじめとした各種の紙で溢れかえっている工場もたくさんあります。ペーパーレス化が定着している企業がある一方、取り組みのハードルの高さから紙を捨てることができず、なくてもよい書類に埋もれている企業も少なくないのが現状かと思います。

 経理の分野では、2022年1月の改正電子帳簿保存法の施行により、帳簿書類の電子保存に関する要件が緩和され、ペーパーレス化の動きが今後ますます活発化していくことが予想されます。2023年10月から始まるインボイス制度では、紙ではなく電子インボイスの活用が増えていくでしょう。また、テレワークの普及やDXの推進により、ペーパーレス化が以前にも増して注目されるようになっています。生産現場を含む企業全体でこの動きが顕著になることは確実であり、私たちとしても業務効率化のためにはその対応を考えていかねばなりません。

出所:一般社団法法人日本能率協会「職場におけるペーパーレス化実施状況」  (2021年8月調査)
出所:一般社団法法人日本能率協会「職場におけるペーパーレス化実施状況」  (2021年8月調査)

ペーパーレス化はなぜ必要か?

 ペーパーレス化とは、紙媒体を電子化してデジタルデータとして保存・活用することです。即ち、紙の使用をなくすことです。特に、ビジネスにおいては、紙で運用されていた文書・書類・資料などを電子化して、業務効率改善やコスト削減を図ることができるという利点があります。また、ペーパーレス化は、ビジネスの場のみならず世の中全体にも広がっています。本や雑誌の電子書籍化やコンサートなどの紙のチケットが電子チケットに置き換わりつつあることも、広い意味でのペーパーレス化と言えます。

 ではなぜいまペーパーレス化が必要なのでしょうか。そこには、ビジネス面での必要性という大きな理由と、環境保全やサステナビリティ(持続可能性)への取り組み、そして政府の推進という背景があります。

(1)ビジネス面での必要性

 社内で扱っている文書を電子化することによって、業務効率改善や生産性向上、コスト削減、セキュリティ強化、オフィスの省スペース化といったメリットを享受することができます。デジタル化によってペーパーレス化された情報は、パソコンやスマートフォンでいつでもどこでも必要になった時にアクセスできます。文書によるアナログ情報をデジタルデータとして活用できるようになることで、DXの推進やデータドリブン経営(これまでのように経験や勘に頼るのではなく、収集・蓄積されたデータの分析結果に基づいて戦略・方針を決める経営)にも効果を発揮します。また、テレワークやモバイルワークなど多様な働き方に対応する上でも、ペーパーレス化の推進は非常に重要な役割を果たします。

(2)環境保全やサステナビリティへの取り組みの一環としても必要

 ペーパーレス化は、地球環境保護の観点からも注目されています。企業で紙の使用を削減すれば、森林資源の伐採やゴミを減らすことによる循環型社会の構築に貢献することができます。SDGsとの関連では、紙の削減と関わりの深いものとしては、目標15「陸の豊かさを守ろう」や目標12「つくる責任 つかう責任」があります。こうした企業の姿勢を自社サイトなどでアピールできれば、環境保護やSDGsに積極的に取り組む企業として企業イメージの向上にもつながります。中小製造業にとっても、近年注目されている環境保全やサステナビリティへの取り組みの一環としてペーパーレスの果たす役割は大きいと言えます。

(3)政府もペーパーレス化を推進

 ペーパーレス化は、企業としての取り組みばかりではなく、政府も推進しています。ペーパーレス推進のための法整備も進められており、「e-文書法」(法定保存文書)と「電子帳簿保存法」(国税関係書類)の二つが柱となります。さらに、「働き方改革」の重要施策のひとつとしてペーパーレス化が注目を浴びるようになりました。このような政府の後押しによって、以前と比べるとペーパーレス化のハードルは着実に下がりつつあると言えます。

出所:国税庁サイト

製造業がペーパーレス化するメリット

 設計図・展開図、仕様書、見積書、作業指示書、作業手順書、検査報告書、日報……。製造業はもともと他業界に比べて紙の種類も量も多い業界です。製品・部品の種類や取引先が多いので、紙の書類で記録を残すという習慣が長年根付いてきました。多品種少量生産やサプライチェーンの多様化という背景を受けて、紙の書類によるやり取りは、放っておけば、減るどころか、ますます増える傾向にあります。

 しかし、紙に依存することによるコスト増(見えるコストもあれば見えないコストもあります)、工数の負荷、情報共有の漏れ、情報の陳腐化、属人化などの弊害を考えれば、ペーパーレス化は必然的な流れと言えます。各企業にとって、今後、やってもやらなくても良いことではなく、必ず取り組まなければならない事と認識すべきでしょう。

 では、製造業においてペーパーレス化を図ることの具体的なメリットは何でしょうか。コスト削減や業務効率化、情報共有の強化、人手不足の解消など、様々なメリットについて、詳しくみていきましょう。

(1)コスト・時間(工数)・保管場所の削減

  • コスト削減

製造業は一般企業より使用する紙の資料が多いので、印刷用紙や印刷代、配布作業、郵送やFAXの通信費などのコストがその分多くかかります。資料の管理にかかる負担を軽減するために、ペーパーレス化は効果的です。

  • 時間(工数)の削減

図面などの書類を探す手間、ファイリングする手間など、意外に時間がかかるものです。ペーパーレス化で、検索速度が圧倒的に速くなり、情報を探す時間も大幅に削減できます。

  • 保管場所の削減

書類の保管スペースは日に日に広いところが必要になってきますが、ペーパーレス化でパソコンに保存しておけばそのような心配はありません。空いたスペースを新たな生産ラインなど有効に活用することができます。

(2)業務の効率化と生産性向上

ペーパーレス化を推進することで、紙の削減という物理的なメリットもありますが、より大きなメリットは、紙でなし得なかった業務の効率化や省人化、生産性の向上にあります。具体的には、以下の項目が該当します。

(3)情報共有の強化

パソコンとネットワーク環境があれば、必要な書類を、必要な人が、いつでもどこでも見ることができます。発注手配、変更手配など、リアルタイムで情報共有でき、部門間や担当者間での行き違いやコミュニケーション不足による損失やミス、トラブルを改善します。

(4)人手不足の解消

少子高齢化で労働人口が減少している中、製造業では人材不足はますます大きな課題になってきています。国内の製造業就業者数は、1992年の1,569万人から2021年には1,045万人と、30年間で33.4%も減少しています(総務省「労働力調査」より)。今後もこの傾向は続くでしょう。そうした人材不足の流れをカバーするひとつの方法がペーパーレス化です。

 例えば、紙で管理していた情報を改めてパソコンに入力する作業が必要なくなり、Excelなどへの転記や確認の工数を省くことができます。皆さん、いくら注意しても誤入力が減らない経験はお持ちでしょう。さらに、紙の書類を整理・保管する作業、膨大な資料の中から必要な書類を探す手間など、マンパワーに頼っていた作業から解放され、コア業務に注力することができます。人手不足の中で生産性を高めるには、ペーパーレス化を積極的に取り入れていく必要があります。

(5)属人化からの脱却

紙ベースで情報共有をする場合、どうしても作成フォーマットや記入方法、保管方法など人によってやり方が違い属人化が起こりやすくなります。特定の担当者にしかわからない・できない業務は、業務効率の低下や業務の停滞リスクの元凶であり、無くさなければなりません。また、各部門間でいちいち紙のやり取りをしていたのでは、どうしても情報共有のスピードに限界が出るし、漏れが生じます。そうした部分をペーパーレスの一環として、管理システムを導入することで属人化を防ぎ、情報共有を漏れなく行うことが必要になります。

(6)情報セキュリティの強化

ペーパーレス化のメリットについて、忘れてはいけないのが情報セキュリティについてです。経営層や年配の従業員の中には、「紙であれば安全だけど、デジタル情報やインターネット上のサービスは危ないのでは?」という思い込みが強いことがあります。しかし、電子化された情報であれば、紙媒体のように、わざわざ鍵のかかった部屋で保管する必要はありません。盗難リスクもないし、火災などで焼失するリスクもありません。重要な情報は、アクセス制限やパスワードによって保護できますし、必要な時にはいつでもすぐにアクセスできます。情報セキュリティの強化という観点で、ペーパーレス化には非常に大きなメリットがあります。

出所:一般社団法法人日本能率協会「職場におけるペーパーレス化実施状況」  (2021年8月調査)

ペーパーレス化が進みにくい理由とは?

ペーパーレス化は、IT技術の発展や働き方改革、法改正の影響などにより、進みつつありますが、日本では紙文化やハンコ文化が根強く残っており、諸外国と比べるとまだまだ遅れているのが現状です。

ペーパーレス化が進みにくい理由には、経営者のITリテラシー不足、メリットが感じられない、従業員のITツール操作への不安、システム導入にコストがかかるなどといったことが考えられます。特に年配の社員は、これまで何十年も紙の文化が当たり前だったため、デジタル文書に抵抗があるケースが多いことでしょう。今までと同じことをやっていれば安心、ITを使わなくても仕事はできる、などの理由に加え、業務を効率化すると自分の仕事がなくなるかもしれないといった不安を持つ人もいるでしょう。ペーパーレス化は一方的に推し進めるのではなく、このような従業員の理解と協力を得ることが何より重要です。従業員にペーパーレス化を行うことによるメリットを実感してもらい、ペーパーレス化によって従業員の負担や会社全体のコストがどの程度減るのか、また、どのような利益があるのかをきちんと説明しましょう。

出所:一般社団法法人日本能率協会「職場におけるペーパーレス化実施状況」  (2021年8月調査)

生産管理システムで、ペーパーレス化と見える化を実現

 ペーパーレス化もDXも言葉は知っているけれど、中小製造業においては自社とは関係ないものと思われがちです。しかし、実際にはどの企業においても、今までと同じ経営手法では増加する一方のコストに耐え切れないし、人材確保も難しくなる一方になる可能性があります。製造現場では、紙の資料の作成・管理コストや、再利用のためのデータ転記の工数、情報共有のあり方などを課題と感じている企業は依然として多いことでしょう。果たして、10年後も同じ景色を見ていても良いのでしょうか。

 中小製造業のそれらの課題を解決できるのが生産管理システムです。受発注をはじめ、生産手配、進捗管理、品質管理、出荷管理、在庫管理などといった製造業における各部門間の情報を見える化し、紙で伝えていた情報を電子化して瞬時に共有・活用を図ります。紙の伝達で起こり得るタイムラグのある情報(劣化情報)に混乱させられることがなくなり、都度担当者が貴重な時間を費やして打ち合わせをする必要もありません。最新情報を常に共有しているから、優先順位が明示され、現場会議が激減します。ムダな調整業務を減らし、本来取り組むべき、ものづくり時間を最大化します。

 日々の業務活動を共有する日報も生産管理紙システムを活用して電子化することによって、業務の効率化を図ることができます。紙の日報では、現場の作業員は、手書きで作業内容や生産数などを記載します。すべての作業員が、正確に記載してくれれば良いのですが、中には適当に書く人もいるでしょう。その結果、誤った数字・情報が一人歩きし、正確なデータが取れないといったことが生じる可能性があります。それでは改善もできません、また、日報のデータを紙からExcelへ転記するには人が必要になります。転記ミスが発生するかもしれないし、人件費も余計にかかります。会社全体での労働生産性が低下します。日報の電子化により、これらが解消され、生産性向上、業務効率化が期待できます。報告までのリードタイムも短縮され、経営者、管理者がデータを有効活用しすることができます。

まとめ:製造業において重要なことは「モノと情報の流れ」の把握

「モノと情報の流れ図」(VSM:Value Stream Map=価値の情報流れ図)は改善の第一歩です。改善活動を行う前に、どこからどこへモノが動き、情報がどこからどこへ動くのか、そして付加価値工程はどこにあるのかを図示し(全体の流れを見える化)、現状を把握します。モノの流れと情報の流れが把握できれば全体を俯瞰することができます。
 
そしてもうひとつ大切なのは、人の流れです。「動く」と「働く」の違いです。その人の行動で工程が進んだかどうかで違いを判断します。各工程が進んでいくということは、何らかの付加価値がモノについていくことです。その付加価値をつけるためには、S(安全)・Q(品質)・C(コスト)・D(納期)・E(環境)・P(生産性)・M(モラル)の情報が必要になります。そのためには、必ず、モノと情報は一体になっていなければならないのですが、どこかでモノと情報が離れてしまう瞬間があります。
 
モノ自体は鉄などであり、品番やバーコードをそれ自体に表記することが技術的・品質的にも問題があるため、一旦情報が離れてしまうと、モノが何であるか、わからなくなってしまうという問題が発生します。その時のために図面を添付するという習慣が現場ではびこっていますが、これがペーパーレス化を阻害する一番の原因と考えます。図面なしでモノを作るということには抵抗感も大きいでしょう。また、多くの企業では、図面に寸法を記入して検査表としており、図面なしでは品質を管理できないという意見も出てくるでしょう。しかし、指示書と図面だけでは、S・Q・C・D・E・P・Mの情報が記載されず、充分な管理ができるとは思えません。

これからペーパーレス化を推進するためには、紙媒体を使わず
・このモノは何か
・このモノに対してはいつまでに何をしなくてはいけないか
・このモノはこの工程でどうなれば完成なのか
・このモノを安全に作るためには何に注意するのか
・このモノを作るために発生する環境負荷は何か
・このモノを良品にするための設備の機能は整備されているか
を管理できなくてはいけません。そのためには、中小製造業においてもDXの推進が必要不可欠になってきます。

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