メルマガ「DXナビゲーション」バックナンバー:第10号 リードタイムは短くなったか?(2/2)
リードタイム短縮にはまずは情報を一元管理できる仕組みが必要
前回、正味製造時間は製造リードタイムの10〜30%程度で、機械をフル稼働させ正味製造時間を短縮しただけでは製造リードタイムはさほど短くならないこと、滞留や待ち時間を減らさないと効果は出ないことをご説明しました。
その前提として、営業、調達、製造等の各部門の情報を一元管理できていなければなりません。サプライチェーン全体のデータを一元管理し、可視化することで、各ステップの状態や進捗を把握できます。これにより、遅延の予測や調整がしやすくなり、製造リードタイムの短縮に繋がります。そのためには、生産管理システムの導入で、情報をリアルタイムに管理できる仕組みをつくることです。そのような仕組みができれば、どの部門も常に最新の情報にアクセス、共有できます。各部門は連携を強化することによって属人的な連絡がなくなり、連絡漏れや他部門への確認で時間を取られてしまう課題を解消できます。まず第一歩です。
生産計画の精度を上げる
次に考えるのは生産計画の精度を上げることです。生産計画の精度が低いために工程間に仕掛りが発生し、製造順序の入れ替え、追い越し等が発生し不必要な滞留が発生することがありがちです。緻密な生産計画を作るためには標準作業を定めて、正しい作業手順を把握するとともに、「正しい順番に作る」という考え方が不可欠になります。「正しい順番に作る」とは、歩留まり優先のネスティングや段取り優先のダンゴ生産(ロット生産)をさせない仕組みを作るということです。今日いるものができていなくて、明日で良いものがすでにできているのはおかしな話です。多品種少量生産の中小製造業において順番に作るということは、ムダをなくす上で重要なことです。
生産計画に準じて順番に生産に着手できる状態を作らなければなりません。生産計画の精度を上げるために、生産管理システムは非常に重要な役割を果たします。
正味製造時間を短縮する
製造リードタイム短縮で一番先に検討すべきなのはこの対策です。付加価値向上に貢献する正味製造時間自体を短縮するためには、以下の視点での管理が必要となります。ただし、そもそも正味製造時間の比率自体が小さい場合、あまり効果が大きくないことに留意する必要があります。
(1) 自動化の導入、設備の効率化
自動化やロボット技術を導入し、手作業による時間を削減します。また、定期的なメンテナンスを行い、古い設備の更新やアップグレードを検討します。ただし、費用を考えるとあまり効果的とは言えません。
(2) 標準作業手順の確立、標準作業時間の設定
作業手順を標準化し、作業者が一貫した方法で作業を行うようにします。これにより、作業のバラつきを減少させ、製造時間を短縮します。標準作業期間の設定については、内訳や根拠が不明なまま標準時間が受け継がれていたり、新
しく配置された人の習熟度によって感覚的に調節してしまったりといったケースも少なくありません。作業のムリ・ムラ・ムダによるロスを防止するためには適切な標準作業時間を設定しなければなりません。
(3) 従業員の教育とトレーニング
従業員のスキルアップを図り、ミスを減らし、作業効率を向上させます。また多能工化を図り、従業員に複数のスキルを習得させ、柔軟な対応ができるようにします。
(4) 不良率を下げる
正味製造時間を最も浪費するのが、不良の発生です。品質を一定に保つことで、再作業や不良品の発生を減少させ、製造時間を短縮します。最後に検査工程を入れるのではなく、工程の途中(特にボトルネック工程の前)に検査作業を入れ、後工程での修正を減少させることによって直行率をアップさせます。
製造リードタイムは停滞のムダが過半を占める
製造リードタイムを短縮する上では、停滞時間をいかに削減するかが非常に重要な事項となります。停滞時間が発生している原因はさまざまです。材料や部品の欠品、機械の故障やメンテナンス、不良品の発生による再作業や追加の検査、各工程間の待ち時間や作業の引き継ぎにかかる時間、段取り替え時間、原材料・部品の配送遅延などがあります。これらの要因を管理し、効率的な生産体制を確立することが、リードタイムの短縮と製造プロセスの最適化につながります。
一番やってはいけないのは「作り過ぎのムダ」
トヨタでは付加価値を生まない作業として、「加工のムダ」「在庫のムダ」「作り過ぎのムダ」「手持ちのムダ」「動作のムダ」「運搬のムダ」「不良、手直しのムダ」の『7つのムダ』を掲げています。製造リードタイムの短縮を考える上で、一番やりがちであるものの、実は一番やってはいけないのが「作り過ぎのムダ」です。まとめて作ったほうが段取りが楽だという理由で売れないもの(売れるまでに時間がかかるもの)を作っていませんか?後工程が求めるよりも早く作ってしまう「作り過ぎのムダ」は、次のようないろいろなムダを誘発します。
・倉庫に在庫を収納する「在庫のムダ」
・在庫収納と余分な材料、部品の調達による「運搬のムダ」
・不要な作業をすることによる「動作のムダ」
・材料を先食いする「材料のムダ」
・作業工程の配分が悪くなる「手待ちのムダ」
・不良品の発見が遅れる「不良を作るムダ」
トヨタ生産システム(TPS)といえばJIT(ジャストインタイム)です。「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」生産することにより在庫を徹底的に減らして効率化を実現させているわけです。この作り過ぎのムダは「不必要なものを、必要でない時に、必要以上に」生産するために発生するムダです。「いつか使うから多めに」という考えを捨て、あくまで「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」作る姿勢の徹底が大切です。これは、単純に量だけのことを言っているわけではありません。どうせ作るから先に先に…と早く作るために作り過ぎのムダが発生してしまうのです。
生産管理システムの活用は作り過ぎのムダの回避に有効です。生産管理システムを用いてタクトタイムを明確にし、他部門と情報共有して生産状況をしっかり把握し、常に正確な在庫情報を持つことが、作り過ぎのムダを削減し、製造リードタイムの削減につながるのです。
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