【徹底解説】「2025年版ものづくり白書」を読み解く!稼ぐ力はDXにあり

はじめに:製造業を救う「次の一手」DX
世界の製造業がサプライチェーンリスクと脱炭素の荒波にさらされる中、日本の製造業はいま、かつてない転換点に立たされています。
「2025年版ものづくり白書」は、日本の製造業が抱える複合的な課題――グローバル競争の激化・人手不足・地政学リスク・脱炭素対応――を乗り越えるための“鍵”として、DX(デジタルトランスフォーメーション)を最重要テーマに掲げました。
白書が強調するのは、DXを単なる「効率化の道具」ではなく、企業変革のエンジンとして捉えるべきだという点です。いま求められているのは、“デジタル導入”ではなく“経営変革”そのもの。つまり、製造業を再び世界で戦える産業にするための「次の一手」が問われているのです。
本稿では、「2025年版ものづくり白書」より、DXに的を絞って、ものづくり企業におけるDXの取組状況、DX推進の鍵となる人材育成、そしてDX活用の将来展望について解説いたします。

デジタル技術の活用には工程の偏り、規模の格差が見られる
ものづくり企業において、デジタル技術を活用した業務改善の状況について見ると(従業員規模問わず全体)、「事務処理」で43.9%、「生産管理」で43.7%、「製造」で39.9%、「受注、発注、在庫の管理」で35.2%と、3割強から4割強の企業が実施しているという調査結果でした。一方、「企画・開発・設計」では20.4%、「品質管理」では22.4%と、2割程度しかデジタル技術を活用した業務改善ができていないことがわかりました。
従業員数に基づく企業規模別にみていくと、従業員数301人以上の企業では各工程での業務改善の実施率が高くなっています。例えば、「生産管理」の工程では、従業員数50人以下の企業が37.9%であるのに、対して、従業員数301人以上の企業では64.2%となっています。
また、デジタル技術を活用した業務改善を行っていない企業は22.0%ありました。
このデータから読み取れる重要な点は以下の2つです。
1.工程の偏り: 業務改善は、現場に近い「製造」や「管理・事務」の領域で比較的進んでいますが、「企画・開発・設計」や「品質管理」といったより専門的・高度な工程では導入が遅れている可能性があります。
2.規模の格差(デジタルデバイド): 従業員数の多い大企業がデジタル化を牽引している一方、従業員数の少ない中小企業は導入の遅れが目立っており、企業規模によるデジタル活用の格差が存在していることが分かります。
中小製造業にとって、ここをどう突破するかがDX成功の分岐点となります。

製造工程でAIを導入しているのは12.2%
製造の工程においては、「CAD/CAM 」、「ロボット」、「プログラミング・ソフトウェア・情報システム」、「制御技術」及び「センサー」の導入が多くなっています。このうち、「ロボット」、「制御技術」及び「センサー」については、従業員数301人以上の企業では導入が60%を超えているものの、従業員数 50人以下の企業では導入が30%程度にとどまっています。
また、「AI(人工知能)」についても12.2%が導入していると答えています。特に大手企業では31.3%が既に導入しており、画像や言語認識技術、生成AIなども含め今後さらに広がるとみられています。
ものづくり企業のデジタル化は「製造」工程を中心にある程度進んでいるものの、技術の種類と企業規模によって導入の進捗に大きなばらつきがあることがわかります。
1.製造高度化の推進: 大手企業を中心に、ロボット、制御技術、センサーなどの導入により、製造工程の自動化・省人化が急速に進んでいます。
2.中小企業の遅れ: 中小企業は、製造の中核となる「ロボット」「制御技術」「センサー」といった設備投資負担の大きい技術の導入において、大手企業から大きく遅れをとっています。
3.次世代技術の胎動: AIは現時点では導入率が低いものの、大手企業が先行して活用を進めており、今後、製造分野の高度なデジタル化の鍵となることが予想されます。

DXで成果の出ている領域と出ていない領域
企業の稼ぐ力向上にDXが重要な取組と位置付けられるようになって久しくなります。
DXの具体的な取組項目における取組割合と成果割合の関係に関する調査によると「アナログ・物理データのデジタル化」、「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」及び「業務の効率化による生産性の向上」には90%超の企業が取り組み、40%超が成果を創出しています。他方で、製品・サービスの創出や高付加価値化、ビジネスモデル、企業文化及び組織マインドの変革には80%前後の企業が取り組んでいるものの、成果割合は20%前後にとどまり、成果になかなか結び付いていないことがうかがえます。
つまり、効率化までは成功していますが、価値創造や経営変革には至っていないのが現状です。デジタルツールを導入しても、それが「稼ぐ力」につながっていません。その理由は明確です。現場主導の改善に留まり、経営層がDXを“戦略の一部”として捉えきれていないことにあります。
ビジネス環境が目まぐるしいスピードで変化する中でも稼ぐ力を向上し続けるためには、データや業務のデジタル化・効率化にとどまらず、製品・サービスの創出や高付加価値化、ビジネスモデルの変革等、より高度かつ広範な領域で成果を創出していくことが有効です。そのためには、実務や改善に直接関わる現場の力に加えて、経営層のコミットメント・バックアップも重要と考えられます。

DX人材育成の3つの壁
2025年版ものづくり白書では、DX推進に欠かせない「人材育成・確保」に関して、依然として多くの課題が残されていると指摘しています。なかでも、次の3点が大きな壁として浮かび上がっています。
企業内育成の壁 ― 育てたいが育てられない現実
多くの企業が新規採用よりも「社内育成」によってDX人材を確保しようとしていますが、現場では次のような障壁が存在します。
・育成に時間がかかる:スキル習得には中長期的な取り組みが必要で、即効性を求める現場との間にギャップがある。
・指導者の不足:現場でDXをリードできる人材が少なく、OJTやOFF-JTが機能しにくい。
・スキルギャップ:従来の「製造スキル」と「デジタルスキル」の間に隔たりがあり、橋渡しが難しい。
結果として、“育てたいが育てられない”という企業が少なくありません。
中小企業と大企業の格差 ― リソースの壁
DX人材育成では、企業規模による格差も顕著です。特に中小企業では、次のような制約が課題となっています。
人的・資金的リソースの限界:育成制度を整備する余裕がない。
支援の必要性:白書では、中小企業向けに職業訓練や育成支援メニューを一体的に提供する国の支援策の充実が重要と指摘。
つまり、DX人材の確保・育成は、企業単独ではなく公的支援と地域連携が不可欠とされています。
組織文化・マインドの壁 ― 定着しないDX
人材を育てても、それを活かす組織がなければ成果は続きません。白書では、次のような“定着と持続”の難しさを指摘しています。
スキルが組織に根付かない:学んだスキルが日常業務で活用されず、形骸化しやすい。
マインドと文化の変革不足:DXは技術導入だけでなく、社員の意識や企業文化の変革を伴う必要がある。
つまり、DX人材の育成=技術教育ではなく、組織変革そのものなのです。
白書では、こうした課題を克服するために、
・企業の能力開発基盤の整備
・産学官の連携による教育プログラムの展開
・地域単位での人材ネットワーク形成
といった取り組みを強化する必要性を強調しています。
まとめ:DXを「経営変革」として実行し、稼ぐ力を再構築する
結論として、2025年版ものづくり白書は、日本の製造業に「単なるデジタル技術の導入」から、DXによって「稼ぐ力を再構築する経営変革」へのシフトを強く促しています。いま求められているのは、経営層がDXを事業戦略の中核に据え、現場と一体となって意識改革と人材育成に踏み出すことです。
自社の「稼ぐ力」をDXでどう再構築するか──その問いに向き合う時期が来ています。
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