メルマガ 「DX ナビゲーション」バックナンバー:第29号 【なぜだ?】せっかく導入した生産管理システムが「立ち上がらない」理由

生産管理システムがなぜ定着しないのか? 現場の本音に迫る4つの要因
「これでうちもDXだ!」と期待に胸を膨らませて導入した生産管理システム。しかし、いざ蓋を開けてみれば、工場の現場から、こんな声をよく耳にします。
「せっかく高いお金を払って導入した生産管理システムなのに、半年経ってもまともに稼働していない…」
「入力が面倒で、結局エクセルに戻ってしまった…」
「現場の社員から“余計な手間が増えた”と不満が出ている…」
なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか?
実はこれ、中小製造業で非常に多く聞かれるお悩みです。せっかく時間とお金をかけて導入したのに、なぜ中小製造業の現場でシステムが「立ち上がらない」のでしょうか。私たちが数多くの導入プロジェクトに携わってきた経験から、こうした事態を招く主な理由とその解決策についてご説明いたします。
理由1. 現場の現実を無視した「理想」の押し付け
多くのシステム導入プロジェクトは、会社の経営層や一部の企画部門が主導します。そこで描かれるのは、往々にして「こうあるべき」という理想論ばかりです。
たとえば、「作業日報をすべてシステムに入力すれば、進捗がリアルタイムで見える!」と意気込んでも、現場の担当者は毎日数十件の工程をこなし、手の空く暇もありません。彼らは作業の合間に、機械の段取り替えや急なトラブル対応に追われています。
実際の現場で起こること
・入力のタイミングがない: 複数の作業を同時に進める中で、いちいちシステムを立ち上げて入力する時間はありません。
・手書きの方が早い: 複雑な操作や入力項目を覚えるよりも、メモ用紙に手書きする方が圧倒的に早く、確実だと感じてしまいます。
・項目が多すぎる: 入力項目が多すぎて、どこに何を入れるべきか混乱し、結局面倒になってしまいます。
このような現場の現実を無視したシステムは、単に使いづらいだけでなく、日々の業務を妨げる「邪魔な存在」と認識されてしまいます。システムが現場のワークフローに寄り添っていないと、どんなに高機能でも使われることはありません。
理由2. 「なぜシステムを使うのか」が従業員に伝わらない
新しいシステムを導入する際、「これを使えば生産性が上がる!」と説明しても、現場の従業員はピンときません。彼らにとって、毎日の仕事を滞りなくこなすことこそが最も重要だからです。
「ただ命令されたから」という「やらされ感」が定着を妨げます。
「面倒な仕事が増えただけ」と感じてしまう。
・「システムを導入するから、入力してくれ」と一方的に命令されるだけでは、新しいシステムは「面倒な仕事が増えただけ」と受け取られてしまいます。
・自分の入力したデータが、どのように会社の利益につながるのか、誰の役に立つのかが見えないと、モチベーションは上がりません。
・システムの目的やメリットが腹落ちしていないと、従業員は仕方なく入力するだけで、積極的に活用しようとはしないのです。システム導入の成功は、従業員がその価値を「自分ごと」として捉えられるかどうかにかかっています。
新しいシステムを導入する際、「これを使えば生産性が上がる!」と説明しても、現場の従業員はピンときません。 彼らにとって、毎日の仕事を滞りなくこなすことが最も重要だからです。「なぜやるのか」というシステムの目的やメリットが腹落ちしていないと、従業員は仕方なく入力するだけで、積極的に活用しようとはしないのです。
理由3.過剰なカスタマイズがシステムを複雑にする
「カスタマイズ要望が多すぎる」問題は、実際に中小製造業でよくある“現場の声”ですし、システムが立ち上がらない大きな理由のひとつです。現場から「この機能がほしい」「ここの表示を変えてほしい」といった要望が次々と出てくるのは、一見すると「現場がシステムに興味を持っている証拠」に見えるかもしれません。しかし、安易にすべての要望に応じると、思わぬ落とし穴にはまります。
3-1. カスタマイズがシステムを「ガラパゴス化」させる
・多くの要望に合わせてカスタマイズを繰り返すと、システムは特定の業務に特化しすぎた、汎用性の低い「ガラパゴス」状態になります。また、特定の人間しか使えないとか、継ぎはぎだらけのシステムにしてしまい、逆に使いにくくしていることがあります。
・その結果、標準機能で解決できるはずの課題も、独自の機能で対応することになり、かえって運用が複雑になります。
・システムのバージョンアップができなくなったり、不具合が発生した際の修正が困難になったりするリスクも高まります。
3-2. 現場の「個別最適」が全体の「非効率」につながる
・特定の部署や個人の要望に合わせたカスタマイズは、その部署にとっては便利でも、他の部署にとっては使いづらいシステムになる可能性があります。
・結果として、部門間の連携がスムーズにいかなくなり、会社全体の生産性向上という本来の目的から遠ざかってしまいます。
3-3. 「カスタマイズ依存」は要注意です
以下の3つの原理原則に従うことが、立ち上げをスムーズにするのです。
・最初は“標準機能”で動かす。
・要望は「本当に必要か?」を現場と一緒に検証する。
・小さな改善はシステム外の運用ルールで吸収する。
重要なのは、すべての要望に応えることではなく、「何が本当に必要か」を現場と一緒に見極めることです。標準機能で実現できることは何か、どのようなルール変更で対応可能かを検討し、システム本来の価値を最大限に引き出す視点が必要です。
理由4.「運用」への配慮が欠けている
システム導入は「ゴール」ではありません。むしろ「スタート」です。しかし、多くのケースで、システムを稼働させた後の「運用」についての検討が甘いまま進められます。
よくある問題点
・トラブル時の対応が不明確: システムでトラブルが起きたとき、誰に聞けばいいのか分からない。
・データの修正ルールがない: システム上のデータと実際の現物数にズレが生じたとき、どう修正すべきかルールがありません。
・教育体制が不十分: 新しい担当者が増えたときの教育や引き継ぎの計画がありません。
現場は、システムの不具合や運用ルールが不明瞭な状況に直面すると、「やっぱり紙の方が安心」と元のやり方に戻ってしまいます。システム導入が一時的な「イベント」で終わらないためには、長期的な視点での運用体制の構築が不可欠です。
まとめ:システムを「現場の相棒」にするために
生産管理システムが立ち上がらない最大の理由は、現場が「使う意味」を感じられないことにあります。経営者の狙いと現場の実感が乖離したままでは、どんなに高機能なシステムも形骸化してしまいます。
システム導入を成功させるには、高機能なシステムを選ぶこと以上に、現場の従業員を「巻き込む」ことが不可欠です。
・現場の声を徹底的にヒアリングする: 現場の業務フローや課題を深く理解し、システムに反映させましょう。
・システムのメリットを現場目線で伝える: データの入力が、最終的にどのように自分たちの業務効率化や働きやすさにつながるのかを具体的に説明しましょう。
・トラブル発生時の運用ルールを事前に決めておく: 何か問題が起きたときに、現場が安心してシステムを使えるように、サポート体制を明確にしておきましょう。
これらのステップを踏むことで、システムは単なる「道具」ではなく、現場の「相棒」となります。せっかくの投資を無駄にしないために、ぜひ、この機会に現場との対話を深めてみませんか?
私たちは経営層と現場の「つなぎ役」として、中小製造業の現場に根ざしたシステム導入・定着をお手伝いしています。貴社の生産性向上に貢献できるよう、全力でサポートいたします。システム導入に関するご相談・お悩みごとがありましたら、お気軽にお声がけください。
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