【徹底解説】中小企業のDXの現状と今後の展望〜『2025年版中小企業白書』と『IPA DX動向2025』が示す変革のロードマップ 2/2〜

はじめに
レガシーシステム(老朽化した既存ITシステム)の課題を解消できなければ、企業はDXを推進できないだけでなく、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある――2018年、経済産業省がこうした内容をまとめた「DXレポート」を発表し、ITベンダーやユーザー企業の間で「2025年の崖」問題として大きな注目を集めました。2025年は、まさにその「DXレポート」の「2025年の崖」の年になります。
DXレポートが登場してから7年が経過した今、日本企業はDXにどこまで取り組み、どのような成果につながっているのか。日本企業のデジタル化の取り組みが初期段階では着実に進んでいる一方で、真の経営改革としてのDXには大きな壁があることが浮き彫りになっていることは、前回の「2025年版中小企業白書」の記事でご説明した通りです。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX動向2025」レポート(副題:日米独比較で探る成果創出の方向性 「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」へ)は、これまでの日本国内企業の動向分析に加え、日本、米国、ドイツの3か国を比較することで、日本企業のDXの現在地と課題を浮き彫りにしています。
今回は、このレポートから読み取れる主なポイントについて解説したいと思います。
日本のDXの特徴
成果創出における日米独の大きな差
DXへの取り組み状況は、日本も米国とほぼ同程度まで進んでいますが、成果の創出という点では大きな差が見られます。米国とドイツでは8割以上が「成果が出ている」と回答しているのに対し、日本では6割弱にとどまっています。また、日本の企業は「成果が出ているかわからない」と回答する割合が他国に比べて非常に高く、DXの成果を適切に測定できていないという課題が明らかになりました。

「内向き・部分最適」に留まる日本のDX
日本のDXは、主に「コスト削減」や「業務効率化」といった内向きの取り組みに成果が集中しています。これは、個別の業務プロセスの改善にとどまる部分最適志向が強いことを示しています。一方、米国やドイツは、「利益増加」「売上高増加」「顧客満足度」といった、顧客や市場に価値を提供する外向きの取り組みに成果が多く見られます。これは、全社的な視点でのDX、すなわち全体最適への意識の差が背景にあると考えられます。

連携不足とサイロ化
日本の企業は、経営層、IT部門、事業部門の間での連携や、外部組織との連携が米国やドイツに比べて著しく弱いことが指摘されています。また、DX戦略をステークホルダーに共有する取り組みも不十分で、組織のサイロ化(部署や部門、システム、データなどがそれぞれ独立し、連携や情報共有ができていない状態)が進んでいる状況がうかがえます。
DX への取組自体は日本企業に着実に浸透しています。しかし、その目的が社内の効率化という「内向き」の活動にとどまっているのが日本の現在地です。DX による企業価値向上を実現するためには、この殻を破り、新たなビジネスや顧客価値を創出する「外向き」の DX へと舵を切ることが、今まさに求められています。
日本のDXが抱える課題
日本のDXは、単にデジタル技術を導入するだけでなく、文化や組織構造といった根深い問題に直面しています。
従業員の意識とスキル
DXを推進する上で不可欠な要素が、従業員の意識改革とスキルの向上です。IPAのレポートによると、日本の企業はDX関連スキルの確保を外部に依存する傾向が強いことがわかっています。一方で、米国やドイツの企業は、既存の従業員のスキルアップに積極的に投資しています。これは、DXを「一部の専門家が推進するもの」と捉え、全社的な取り組みとして浸透させられていない日本の現状を反映していると言えるでしょう。
組織・企業文化の壁
多くの日本企業には、長年にわたって培われた独自の企業文化が存在します。レポートでは、部門間の連携不足や、失敗を恐れる風土がDXの足かせとなっていることが指摘されています。特に、部門ごとに最適化された「サイロ化」した組織は、全社的なDXを阻む大きな要因です。また、変化を嫌う保守的な文化は、新しい技術やビジネスモデルへの挑戦を妨げ、イノベーションを阻害しています。
経営層のコミットメント不足
IPAのレポートは、日本の経営層のDXに対する理解とコミットメントが不十分であることも示唆しています。米国やドイツでは、経営層がDXを事業戦略の核と捉え、リーダーシップを発揮しているのに対し、日本ではDXを「IT部門の課題」と捉え、現場任せにしているケースが散見されます。DXは、単なるIT投資ではなく、ビジネスモデルや組織文化の変革を伴う経営課題です。経営層がその重要性を認識し、全社的な変革を主導しなければ、DXは成功しません。
今後の展望:変革へのロードマップ
日本の企業がDXの「殻」を破り、競争力を向上させるには、以下の3つのステップが不可欠です。
目的の再定義:「内向き」から「外向き」へ
DXの目的を、単なる「業務効率化」や「コスト削減」から、「顧客価値の創出」や「新規事業の創出」へと再定義することが第一歩です。市場や顧客のニーズを深く理解し、デジタル技術を活用して、これまでになかった新しい製品やサービスを生み出す「攻めのDX」へと舵を切ることが求められます。
組織の変革:部門間の壁を越える
部門間の壁を取り払い、経営層、IT部門、事業部門が一体となってDXを推進する体制を構築する必要があります。また、従業員一人ひとりがDXの重要性を理解し、主体的に関わるための意識改革も不可欠です。そのためには、DX関連のスキルを学ぶ機会を提供し、失敗を恐れずに挑戦できる企業文化を醸成することが重要です。
経営層の役割:変革のリーダーシップ
経営層は、DXを自社の最重要課題として位置づけ、変革のリーダーシップを発揮しなければなりません。DX戦略を明確に定義し、全社に共有するとともに、必要な資源(人材、予算、時間)を適切に配分することが求められます。
まとめ
『2025年版中小企業白書』と『IPA DX動向2025』が示すように、日本のDXは黎明期を脱し、次なるステージへと移行しています。重要なのは、単なるデジタルツールの導入にとどまらず、「内向き」から「外向き」へ、部分最適から全体最適へと、その目的とアプローチを根本的に見直すことです。
真のDXとは、デジタル技術を活用した企業全体の「変身」です。経営層が強い意志を持って変革を主導し、組織全体で知恵と力を結集できれば、日本企業は「2025年の崖」を乗り越え、新たな成長の道を切り拓くことができるでしょう。


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