メルマガ「DXナビゲーション」バックナンバー:第24号 「異常管理」とは?(1/2)

 中小製造業における「異常管理」とは、製造プロセス中に発生する予期せぬ問題や計画からの逸脱を早期に発見し、適切に対応して再発を防止するための一連の活動を指します。大企業に比べてリソースが限られる中小企業においては、この「異常管理」をいかに効率的かつ効果的に行うかが、生産性向上、品質維持、そして顧客満足度向上に直結します。

異常に気づけない現場とは?

 いろいろな企業の現場を見せていただくと、「問題や異常が発生してもそれにすぐ気づけない職場」になっているのではないかと思うことがあります。外部の我々から見ると、「この状態を異常と思わないの?」「このデータは問題と思わないの?」と感じるのですが、社内の皆さんは、異常と感じていないことがあるということです。社内では「こんなものだろう」という感覚に陥っている場合があります。「異常に気づけない職場」というのは、製造業では、結果として不良品の流出や設備トラブル、品質低下、安全事故などにつながるリスクが高い状態の現場です。こうした現場には、いくつか共通する特徴があります。

  1. 標準(基準)が曖昧、または存在しない
    ・そもそも何が「正常」で、何が「異常」なのかの基準が曖昧である。
    ・作業手順書が整備されていない、あるいは更新されていない。
  2. 現場の「当たり前」が間違っている
    ・機械や設備の音やにおい、振動などの違和感を「そんなものだ」で済ませる。
    ・不良品、仕損品が出ても「これぐらいは仕方ない」で済ませてしまう。
  3. 履歴管理の不備
    ・現場での異常がリアルタイムで管理者に共有されず、対応が後手に回る。
    ・過去の異常発生状況が記録されておらず、再発防止策が立てにくい。
  4. 「言いにくい」雰囲気がある(コミュニケーションの不足)
    ・上司やベテランに対して、若手が物を言いづらい社内風土がある。結果的に、誰も本当のことを言わなくなる。
    ・報告、連絡、相談の文化が弱い。
  5. 情報の属人化、教育や訓練が不十分
    ・ベテラン作業者の経験に依存しており、異常の発見や対処が個人技に偏っている。
    ・OJTが機能しておらず、作業者が異常に気づく知識やスキルを持っていない。
  6. チェックや点検が形骸化している
    ・点検表に形だけチェックを入れており、実際には内容を見ていない。
    ・異常を見つけても、情報共有・対応方法が定まっていない。
  7. 日常業務に追われて「振り返り」がない
    ・問題が隠蔽・放置される。「今は忙しいから」「前例がないから」と改善が後回しにされる。
    ・トラブルが起きても、根本的な原因究明や再発防止の時間が取られない。
    ・常に納期優先で、社内は「とりあえず動いていればOK」な状態である。
    ・点検や保守が後回しにされがち。

小さな異常を軽視してはいけない

 異常という言葉は、すでに起きてしまった不具合や悪い状態を指して使われがちです。しかし、本質的には、「異常が起きてから対処するのではなく、起こらないように未然に防ぐこと(予防)が重要」という考え方が、本当の意味での異常管理のアプローチになります。つまり、異常管理の真の価値は「未然防止」にあります。だからこそ、現場では「ヒヤリ・ハット(重大事故の一歩手前)」の共有や、「ちょっとした変化への感度」がとても大切になるわけです。

 『千丈の堤(つつみ)も螻蟻(ろうぎ)の穴を以って潰(つい)ゆ』(出典:「韓非子」喩老篇)という言葉があります。高さ千丈の大きな堤も、蟻の穴から水が滲みて決壊してしまうように、大きな組織・事業・信頼も、些細な欠陥や不注意で台無しになる、小さなほころびや油断が、大きな事故や損失につながることがあるという教訓です。逆に言えば、大事故やトラブルの前には、蟻の穴のような些細な予兆が必ずあるものです。この些細ないつもと違う予兆に気付き、適切な対応を迅速に行なっていれば、大事故は防げます。この言葉は、異常管理やリスクマネジメントの本質を非常によく表していると思います。
・「このくらいは大丈夫だろう」は危険信号です。
・小さな異常(兆候)を見逃すと、やがて大事故に発展します。
・最初は「大したことない」と思った小さな変化が、深刻なトラブルの引き金になります。
・「まだ大丈夫」と思った時点が、実は最も危うい瞬間だったりします。

 「異常に気付けない職場」は、表面的にはうまく回っているように見えても、実は内側では徐々に人も組織も壊れ、QCDもじわじわと低下していきます。もし「ちょっとおかしいかも?」と思ったなら、その感覚はとても大切です。その感覚を活かすには、全社を挙げて次のような組織風土を醸成する必要があります。
・異常の「兆候」や「違和感」を記録(データ化)、共有する仕組みを作る。
・「そんな細かいことなんて…」と思わず、小さな違和感にも反応する。
・「なぜその異常が起きたのか」をしっかり掘り下げ、構造的に対策する。
・過去の事例を学び、「油断がもたらす連鎖」を認識する。

次号は、異常管理における生産管理システムの果たす役割についてご説明いたします。

 異常を早期に検知し、適切に対応するためには生産管理システムが非常に重要な役割を果たします。正常、異常の判断には、状態の条件のうちでデータ化できるものは、できるだけデータ化するようにしなければなりません。生産管理システムは、そうしたデータ化に必要不可欠なシステムです。異常に対して「早く気づき」「正しく記録し」「すばやく対応し」「二度と起こさない」ための仕組みと土台をつくる上で必要となります。次号では、異常管理における生産管理システムの果たす役割についてご説明いたします。

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