メルマガ「DXナビゲーション」バックナンバー:第23号 「自工程完結」を実現する鍵は生産管理システムの活用にあり

はじめに

 近年、製造業を取り巻く環境は、顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短期化、グローバル競争の激化など、変化のスピードを増しています。また、多品種少量対応、短納期要求も一層高まっており、より緻密な管理が求められています。このような状況下において、各製造工程が自らの工程内で品質を保証し、後工程に不良品を流出させない「自工程完結」の考え方が、品質向上、コスト削減、リードタイム短縮を実現するための重要な戦略として注目されています。本稿では、製造業における自工程完結の意義と課題を踏まえ、その実現を強力に支援する生産管理システムの重要性について考えたいと思います。

製造業における自工程完結の意義

 自工程完結とは、各製造工程において、品質管理、設備保全、改善活動などを自主的に行い、その工程内で品質を保証し、不良品を後工程に流出させないという考え方です。「品質は工程で作り込む」という基本原則に基づき、現場力の強化やムダの排除を目的とした取り組みです。その実現は、以下のような効果をもたらします。

・品質向上: 各工程での徹底的な品質管理により、不良の早期発見・早期対応が可能となり、最終製品の品質向上につながります。
・コスト削減: 後工程での不良対応や手戻りが減少し、不良品に費やされる材料費、労務費などのコストを削減できます。
・リードタイム短縮: 後工程での検査や修正が不要となるため、製品の製造リードタイムを短縮できます。
・従業員の意識向上: 各工程の担当者が品質責任を持つことで、品質に対する意識が高まり、改善活動への積極性が生まれます。

 自工程完結の目的は、各作業者が自分の工程の品質に責任を持ち、不良の早期発見と是正を通じて、品質向上・コスト削減・納期短縮を実現することです。しかしながら、中小製造業においては、以下のような課題により自工程完結が十分に実現できていない場合があります。

・情報共有の不足: 各工程の品質情報や作業状況がリアルタイムに共有されず、問題発生時の連携や原因究明が遅れることがあります。
・標準化の遅れ: 作業手順や品質基準が明確に標準化されておらず、担当者による作業品質のばらつきが生じることがあります。
・データ分析の困難性: 各工程で収集されるデータが十分に活用されず、品質改善や予防策の策定に繋がらないことがあります。
・教育・訓練の不足: 従業員に対する自工程完結の意識醸成や必要な知識・技能の教育・訓練が不足している場合があります。

生産管理システムによる自工程完結の実現

 生産管理システムは、生産計画から実績管理、品質管理まで、製造業の幅広い業務プロセスを統合的に管理するシステムです。その機能を活用することで、上述の自工程完結における課題を克服し、その実現を強力に支援することができます。以下の事例に共通するのは、IT化によって属人性を減らし、現場に「品質を工程内で完結する」責任と仕組みを持たせるという点です。

1.リアルタイムな情報共有と可視化
(1)各工程の作業進捗、品質データ、設備稼働状況などをリアルタイムに収集し、関係者間で共有することで、問題の早期発見と迅速な対応を可能にします。例えば、前工程のAさんの作業が遅れている場合、Bさんはアラートを受け取り、事前に段取りを変更したり、応援を要請したりといった対策を講じることができます。これにより、手待ち時間を減らし、スムーズな工程連携が可能になります。
(2)品質情報(不良発生状況、検査結果など)を可視化することで、どの工程でどのような問題が発生しているのかが一目で把握でき、対策を講じやすくなります。例えば、特定のロットで不良が多発していることがすぐに分かり、そのロットの追跡や、前工程へのフィードバックを迅速に行うことができます。

2.標準化の推進と徹底
(1)作業指示書や手順書、品質基準、図面などがシステム上で一元管理され、常に最新の情報が作業者に提供されます。作業者はそれらを参照しながら迷うことなく、正確かつ効率的に作業を進めることができ、不良発生の抑制につながります。
(2)作業実績や検査結果をシステムに記録することで、標準からの逸脱を早期に検知し、是正処置を促します。不良が発生した場合は、その情報がリアルタイムに関連部署に共有され、迅速な原因究明や対策が可能になります。

3.データに基づいた分析と改善
(1)各工程で収集された品質データや作業データを集計・分析することで、不良の発生傾向や原因を特定しやすくなります。
(2)分析結果を基に、工程改善や予防策の立案・実施を支援し、PDCAサイクルを回すことで、継続的な品質向上を実現します。例えば、特定の作業に時間がかかっているボトルネックを特定したり、不良の発生傾向を分析したりすることで、具体的な改善策を検討しやすくなります。

4.教育・訓練の効率化
(1)標準作業手順や品質管理に関する教育コンテンツをシステム上で提供することで、従業員は必要な情報をいつでもどこでも学習できます。
(2)作業実績や品質データを活用して、個々の従業員のスキルレベルを把握し、OJTなどの個別指導に役立てることができます。

5.トレーサビリティの強化
(1)製品の製造履歴や使用部品の情報をロット単位で追跡管理することで、不良発生時の原因究明を迅速かつ正確に行うことができます。
(2)問題発生時の影響範囲を特定し、迅速な回収や対策を講じることで、顧客からの信頼を維持します。

まとめ

 製造業における自工程完結は、品質向上、コスト削減、リードタイム短縮を実現するための重要な戦略であり、企業の競争力強化に不可欠です。生産管理システムは、リアルタイムな情報共有、標準化の推進、データ分析による改善支援など、自工程完結を実現するための強力なツールとなります。生産管理システムは、製造現場のデジタル化と業務の標準化を通じて、自工程完結の理念を日常業務に根付かせる重要な役割を担っています。

 ただし、システムの導入はあくまで手段であり、その効果を最大限に引き出すためには、経営層の強いコミットメント、全従業員の意識改革、そして継続的な改善活動が不可欠です。生産管理システムの導入を契機として、組織全体で自工程完結に取り組み、高品質な製品を効率的に生み出す体制を構築することが、今後の製造業が持続的に成長していくための重要な鍵となります。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする