メルマガバックナンバー:第4号 「DX白書2023」から探る日本のDXの現状

「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」

IPA(情報処理推進機構)が2023年2月に発表した『DX白書2023』のサブタイルです。現在の日本のDXに関する状況をひと言で説明するキャッチーなタイトルだと思いませんか。モノづくりDXの重要性が叫ばれて数年経ちますが、先のメルマガ「DX or Die」や「2025年の崖を乗り越えるためには」で触れたように、危機感は持てども、DXにどう取り組めば良いのかわからない、DXにおいて満足のいく結果を出せていないという企業はたくさんあることでしょう。 ついては、今回は、DXに関する日米企業の調査結果を分析し、日本企業におけるDXの取組状況や、DX推進への課題と対策をまとめた『DX白書2023』の内容をご説明したいと思います。日本のDXの現状、日本企業の課題、そしてDX推進の方法について理解を深め、各社がDXを推進する上で資するものであれば幸いです。 なお、本稿に引用する図版2点の出所は、『DX白書2023 エグゼクティブサマリー』からになります。

 DXの進捗状況は? 

2022年度の調査によると、日本ではDXに取り組んでいる企業(「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」の合計)は69.3%となり、2021年度から13.5ポイント増加しました。米国ではほぼ横ばい(2021年度 79.4%→2022年度 77.9%)であり、両国の差は縮小しているように見えます。

しかし、全社戦略に基づいて取り組んでいる企業(「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」の合計)に絞って見ると、日本は54.2%、米国は68.1%と13.9ポイントの開きがあり、日本企業においては、全社的なDXの取り組みが進んでいない状況が推察されます。

マルマガ4号図版1_DXの取組状況

DXの成果を出すためには

 深刻なのは「DXの成果が出ている」と実感している企業の割合です。「成果が出ている」企業の割合は、日本企業では2021年度の49.5%から2022年度は58.0%に増加しています。一方、米国企業では89.0%となっており、日米差は依然として大きいことが分かります。 この差の原因は何でしょうか。外部環境変化のビジネスへの影響と対応状況についての回答結果を見ると、「技術の発展」をはじめとしたすべての外部環境変化に関して、日本企業より米国企業の方が「非常に強い影響があり、ビジネスを変革させ最優先で影響に対応している」という回答割合が多くなっています。つまり、日本企業は、外部環境変化への認識と対応が遅れていると考えられます。日本企業にはグローバルな外部環境の変化にアンテナを高くして情報に敏感であること、および変化を機会と捉えていくようなチャレンジ志向にマインドシフトしていくことが求められます。影響があることを認識しているものの、どう対応すれば良いのか検討するばかりで、ただ手をこまねいている、周りの様子を見ているという企業が多くないでしょうか。DXを進めていくためには、外部環境の変化を意識し早急に対応できる行動力が求められます。

 経営層のITに対する理解のなさも 

なお、「ITに見識がある役員の割合」は、日本は2021年度調査から割合は増加(12.8%→17.2%)しているものの米国と比べて2倍以上の大きな差(34.7%→38.9%)があり、日本の経営層のITに対する理解が不十分であることがDXに対する取組の阻害要因になっていることが懸念されます。また、経営者・IT部門・業務部門が協調できているかを尋ねた質問についても、「十分にできている」「まあまあできている」を合わせた割合は、米国では8割であるのに対して日本は4割弱となっており、DXを全社的に推進していくうえでの課題となっていることが推察されます。 

日本企業ではDXをデジタライゼーションやそれによる業務効率化と捉えている企業も多く、DXをビジネスそのものの変容という正確な理解をしているとは言えない状況があります。また、経営者・従業員ともに、DXについて確たる共通認識がない企業もあります。このように日本では、経営層から従業員まで全体的にDXに対する理解が不足している状況にあることが、日米のDXの成果の差の一番大きな要因だと考えられます。

 DX人材の確保・育成

 DXを推進するために自社にどのような人材が必要となるか、具体的な人材像を設定し、それを 社内に周知し、組織として目指す方向性についての共通理解が醸成されなければなりません。次にその人材像に当てはまる人材を社内から発掘・登用、また社外から獲得し確保をしていくことが必要となります。獲得・確保した人材についてはDXを推進する人材としてのキャリア形成やキャリアサポートの施策、スキルアップするための育成施策や既存人材の学び直しなどにも取組むことが重要となります。また、DXを推進する人材に対しては既存の人材とは異なった評価基準が必要となるため、新たな評価基準の定義と定期的な評価の実施・見直しを行い、人材にフィードバックを行うことで人材の定着化を図ることも必要です。DXが組織に根付いていくためには土壌となる企業文化のあり方も重要であり、 DXにふさわしい姿に変革していかねばなりません。DX人材のための新たな評価基準を定め、評価の実施・見直し、フィードバックを行うことで人材の定着化を図ることが重要です。

 人材育成の課題について 「支援はしていない(個人に任せている)」 と回答する日本企業は米国企業と比べて約6倍にものぼり、人材の確保・育成への関心の薄さは深刻な課題であると言わざるを得ません。

 DX戦略の策定と推進

 DX戦略の策定に際しては、まずDX推進によって達成すべきビジョンを定めます。そして「外部環境変化とビジネスへの影響評価」を考慮したうえで、「取組領域の策定」および「推進プロセスの策定」を行い、 達成に向けた道筋を整理することが必要です。

 策定した推進プロセスを実現するためには「企業競争力を高める経営資源の獲得、活用」、すなわち人材・ITシステム・データという経営資源をどのように獲得・配置し継続的に有効活用するかを検討することが重要です。 

「成果評価とガバナンス」では、顧客への価値提供を評価するための評価指標の設定とDX推進状況の評価、評価結果に基づく人材、投資などのリソース配分見直しの仕組みを構築する必要があります。

 DX推進に際しては上記の戦略策定・推進・評価の一連のプロセスを早いサイクルで繰り返し、失敗を恐れないことです。例え失敗してもそれを良い経験として、そこから学習しながら進めることが大切です。

メルマガ4号図版2_DXの全体像と進め方

まとめ

白書のエグゼクティブサマリーは37ページであり、ぜひ経営者の皆様に全ページをお読みいただきたい内容となっています。「アメリカはすごい、日本はダメ」と短絡的に捉えて、あきらめるのは最悪の考えです。「なぜ日本企業のDXは進まないのか」「どのような点に注意すればDXは失敗しないのか」といった疑問を解決するヒントが詰まっています。このまま古いシステム・古い考え方に固執していれば、世界との差は広がっていくばかりです。しかし、DXを経営課題のトップに据えて、社長自らが本気で取り組めば、ピンチをチャンスに変えることができるはずです。

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