【2023年最新版】「見える化」で会社は変わる

問題を明らかにするのが「見える化」の本質

現在、「見える化」という言葉はさまざまな意味で用いられています。経営戦略の見える化、進捗管理の見える化、原価管理の見える化、業務の見える化、職人ノウハウの見える化など、いろいろな場面で使用される「見える化」です。

しかし、現在行われている「見える化」の取り組みの大半は、きわめて表面的なレベルにとどまっているのではないでしょうか。正しい意味を理解して改善に取り組んでいる企業は少数であるように思います。正しい「見える化」は、実績値や計画値を比較グラフにし、ボードに貼れば達成できるものではありません。また、指標管理の仕組みを導入すれば事足りるというものでもありません。最も多い勘違いは、さまざまな情報をオープンにしさえすれば、「見える化」の目的が果たせたというものではないでしょうか。

ITは確かに便利になりましたが、ITを活用して情報をオープンにすればそれで良しというものではありません。多くの従業員が情報を共有すること自体は良い取り組みなのですが、情報を共有して何をするかが肝です。情報によって問題点をあぶり出し、そこからどのような改善の手を打つべきなのか、そしてその改善の効果がいかなるものであるのか、見えてこなければ意味がありません。

「見える化」の最も本質的な意味は、「問題」を見えるようにすること。すなわち、情報やデータを視覚的に表現することによって、「不良」「異常」「変化」が瞬時にわかるようにすることです。それを見たすべての人が「問題意識」を持ち、「問題解決」について考えを巡らせることができるような状況にならなければなりません。「見える化」は、「見えないものを見えるようにし」→「認識する」→「判断する」→「行動する」→「問題を解決する」という一連の行動を起こすトリガー(引き金)となるものです。

「見える化」の目的は現状を把握すること自体ではなく、隠れた課題や問題を浮き彫りにし、改善・解決に取り組むことです。

問題が自然に目に飛び込んでくる状態をつくりだす

「見える化」の目的を果たすためには、従業員の意思にかかわらず、さまざまな問題が「意識せずとも目に飛び込んでくる」状態をつくり出すことが必要です。「見る」ではなく、「見える」という言葉が用いられている理由もそこにあるのでしょう。

例えば、信号や道路標識を考えてみましょう。信号では、意識せずとも自然に「赤」「黄」「青」の情報が目に飛び込んできます。私達は普段、目に飛び込んできた色によって、青信号なら進み、赤信号なら止まる…という行動を迅速にしています。道路標識では、様々な地点で、注意を促してくれます。企業にとっての「見える化」は、信号や道路標識の役割と似ています。信号や道路標識は、誰の目にも自然に飛び込んできて、すぐに判断できるものでなければならないのです。

また、「見せ方」にも注意しなければなりません。見えにくい信号や道路標識が設置された場所では事故が頻発しやすいのと同じで、分かりにくい「見せ方」では、問題が隠れてしまったり、かえって問題が大きくなってしまうことがあります。よく見なければ気がつかないないような見せ方、わかる人にしか理解できない見せ方ではなく、誰の目にも自然に飛び込んで来て、迅速に同じ行動を促すものでなければなりません。

トヨタ自動車の工場で有名な「アンドン」(電光表示盤)は、設備の稼働状況や作業指示が一目でわかるものです。異常が生じた時、現場監督者や作業員に知らせる呼び出しアンドン、設備やラインの運転状況を赤・黄・青のランプで知らせる稼働アンドンなどがあります。異常が発生したら、即時に関係者が知ることができるように表示されます。管理者や作業者の「目に飛び込んでくる」状態を意図的に作り出しているものです。極めてシンプルな仕掛けながら、迅速な問題解決に大きな役割を果たしています。

このように、「見える化」はただ見やすい状態にするだけでは意味がありません。自分に都合の悪い情報も、関係者だけに囲われることなく、「否応なしに誰の目にも入る」ように共有化されることが大切です。そして、指示・命令がなくても、起こりうる問題解決の意識を現場に抱かせ、自ら改善を促すものでなければなりません。

「見える化」における標準づくり

上で述べたように、「見える化」の最も本質的な意味は、異常を見えるようにすることですが、異常があるかないかは、正常な状態がきちんと定まっていなくては見えてきません。正常な状態が定まっていなければ、何が正しいのか、何が間違っているのか、どのような変化が起こっているのかわかりません。そのため、「見える化」を実践するためには、標準化、つまり基準をつくることが必要不可欠になります。標準を定めることでその標準と現実とのギャップが異常と認識され、その異常を改善しようとする意識が働きます。

トヨタ生産方式では、「標準のないところに改善はない」と言われます。まずは標準作業という“起点”を作り、それと比べてタクトタイムが何秒遅いのか、どこの工程がボトルネックになっているのか、不良がどれだけ増えたのか、ムダ・ムラ・ムリが発生していないか等々、「見える化」によって客観的に測定、評価できて初めて改善が図れるのです。

なお、標準作業を定める目的は、このように標準と現実のギャップを見つけて改善のツールとすることはもちろんですが、何より大切なのは、モノのつくり方のルールを明確にして効率的な生産を実現することと品質を保つことにあります。標準とはルールのことです。今行っているモノづくりのルールを定め、ルール通りにモノづくりをして現状を把握することがまず必要です。そして、「今までのルールだとこのような結果になる」「ルールを変えると結果はこう変わる」ということをデータで語ります。ルールが存在することによって、モノのつくり方が人によって異なることで生じるムダや品質のムラを最小限に抑えることができます。これは業務効率化や生産性向上につながるものです。

中小製造業の場合、必ずしも業務の標準化が十分にできていないのではないかと思います。生産性を向上させるためには業務の標準化は非常に重要度の高い取り組みであることを、改めて認識しておく必要があります。

「見える化」を行うメリットは?

工場の「見える化」の目的は現状を把握すること自体ではなく、そこから浮き彫りになる課題や問題を解決することです。最終的な目的は、工場全体の生産性向上にあります。工場の現場では、多くの人が複雑な工程のもとに限られたリードタイムで働いています。その中では、意図せずともさまざまな業務が属人化していたり、非効率な業務がそのまま改善されずに行われていたりするものです。どの工場も何がしかの隠れた課題や問題が潜んでいることでしょう。そうした課題の「見える化」が実現できれば、経営者視点、管理者視点、従業員視点のいずれでも、さまざまなメリットを受けることができます。次の図で、具体的にいくつかのメリットを挙げておきましょう。

生産管理システムにおける「見える化」とは?

中小企業の生産現場では、さまざまなモノが「見えない」ことにより、計画通りに生産が進まない、品質にばらつきが出る、思ったように利益が出ない、納期遅れが生じる、在庫が過剰になるなどムリ・ムダ・ムラに起因する問題が日常的に発生しています。生産現場の状況がリアルタイムで、しかも一目で把握・共有できれば、急な受注や変更、納期短縮、不良、欠品といった突発的な事態にも迅速に対応できます。しかし、現実は、今、誰が、何をしているのか、何が起きているのか、現場の進捗状況がわからないといったことが往々にしてあるものです。

このような課題を、IT技術を用いて解決するのが生産管理システムです。生産管理システムでは、モノ、4M(Man=人、Machine=機械、Material=製品・材料、Method=作業方法)、QCD(Q:Quality=品質、C:Cost=コスト、D:Delivery=納期)、経営という各視点から、工場の生産状況を「見える化」し、生産工程に関わるすべての情報を一元管理します。モノの情報や業務の情報をデータとして「見える化」することで、より効率的な生産活動を実現するものです。

(1)モノの「見える化」

生産現場のモノ、例えば、材料・製品・仕掛品・不良品・在庫などが見えない状況下では、探すムダ、手待ちのムダ、つくり過ぎのムダ、在庫のムダ、不良や手直しのムダなどが発生します。これらのムダは付加価値を生まない作業・業務であり、早急に無くす必要があります。

その中のひとつ、つくり過ぎのムダについて考えてみましょう。「不必要なモノを、不必要な時に、不必要なだけつくる」ことが、つくり過ぎのムダです。つくり過ぎのムダは、ムダの中でも一番悪いと言われており、早急に削減しなければなりません。つくり過ぎのムダが最も悪いとされる理由は、それが、在庫のムダ、動作のムダ、運搬のムダなど他のムダをも誘発させてしまうからです。また、つくり過ぎのムダを続けている限り、原価は下がりません。品質の低下にも結びつきます。後工程が困らないように在庫を大量に持つことは ”良い事” でしょうか。いや、各工程がそれを実行したら工場中、在庫品であふれかえってしまうでしょう。性能が優れ、高価な機械だから、使わなければ損だと判断して、必要数を無視してつくり過ぎてしまうことはありませんか。それもムダです。生産管理システムを用いて、必要なものを、必要な時に、必要な量だけ生産する仕組みを構築するとともに、常に在庫を「見える化」し、把握できるように管理しなければなりません。

(2)4Mの「見える化」

4Mとは、Man(人)、Machine(機械)、Material(製品・材料)、Method(作業方法)の4つの要素を分析・改善していくことで、課題発見や問題解決を図る手法です。製造に関する生産性の良し悪しやトラブルなどは、すべてこの4Mが要因だと言われています。とりわけ、Manは、他の3Mすべてに大きな影響を与えるため、4Mの中でもっとも重要な要素だとされています。生産現場で発生する課題を解決するには、まずこの人の「見える化」をいかに行うか、工夫する必要があります。作業者の動きや作業時間、品質情報などを、生産管理システムを活用してリアルタイムに収集・分析し、問題や改善点を早期に把握することが求められます。

また、生産管理における人の「見える化」は、生産性向上や品質改善に貢献するだけでなく、作業者のモチベーション向上や作業環境の改善にもつながります。作業者が自分の作業時間や生産性が「見える化」されることで、自己評価や目標設定がしやすくなり、自らの生産性向上意欲を引き出します。
さらに、「見える化」ができていない組織では、業務内容を把握しているのが担当者のみという、いわゆる属人化が進みやすくなります。業務の標準化や平準化、リスクマネジメントの観点から、属人化した業務の「見える化」に取り組むことは必要不可欠であり、これも人の「見える化」を行う上での重要な点です。

(3)QCDの「見える化」

QCDは生産管理において重要な指標です。QCDを管理して、品質の向上、コスト削減、納期達成率の向上などを実現することは工場管理の基本です。そのためには、生産管理システムの導入で、現場の作業者の動きや機械の稼働状況、作業進捗状況などをリアルタイムで「見える化」することで、生産ラインの全体像を把握することが必要です。そして、生産計画と生産実績の対比から、計画通りにモノづくりが進んでいるのかどうか、さらに、工程毎・設備毎にブレイクダウンして、生産ラインのボトルネックがどこにあるのかを把握しなければなりません。こうしたさまざまな情報が数値化、「見える化」された環境を構築することで、QCDの最適化を目指すことができます。

(4)経営の「見える化」

中小企業では規模が小さいため、社長と従業員間、従業員同士の関係が密接であり、相互理解ができている、つまり「見える化」ができていると考えがちです。しかし実際は、ビジョンや経営方針は社長の頭の中だけにあり、従業員に十分に伝わっていないことは多いものです。従業員は程度の差こそあれ「うちの社長は何を考えているのかよく分からない」と感じているのではないでしょうか。

また、従業員も自分の目先の業務遂行で精一杯で、会社全体の動向や他の従業員の様子に関心を寄せる余裕がないという事態もみられます。自分の周囲のことしか見えない状況下では、自工程さえ良ければよいとなりがちで、部分最適に終始してしまいます。工場全体の最適化を図り生産性を向上させるためには、経営の「見える化」によって、社長が迅速な意思決定を行うとともに、その熱き『想い』を従業員に伝えることが何よりもまず優先されるべきではないかと思います。

まとめ

繰り返しになりますが、「見える化」の目的は見えること自体ではなく、見えることで浮き彫りになる問題を解決することです。「他社がやっているから、うちの会社も見える化をやっています」という中途半端な取り組みや、数字をまとめて一喜一憂するだけ、マニュアルを作成しただけというのでは、「見える化」本来の目的を見失う可能性があります。「見える化」はあくまでも手段です。問題が発生してもすぐに解決できる環境を実現し、さらに問題が発生しにくい環境を実現するための取り組みであるということを従業員全員が意識しながら進めなければなりません。でなければ、従業員は「監視されている」「信用されていない」となりかねず、本末転倒となってしまう危険があります。本稿のタイトルを、「『見える化』で会社は変わる」としましたが、「見えるようにしただけでは会社は何も変わらない」ということを付け加えて、締めの言葉にしたいと思います。

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