【徹底解説】中小企業のDXの現状と今後の展望 〜「2025年版中小企業白書」と「IPA DX動向2025」が示す変革のロードマップ 1/2〜

はじめに

 円安・物価高、30年ぶりの金利上昇、そして構造的な人手不足。2025年を迎え、中小企業を取り巻く経営環境は、かつてないほど厳しさを増しています。このままでは、多くの企業が生き残れない時代が到来しているのです。

 このような激変の時代に、持続的な成長を実現する鍵となるのがDXです。皆さんの会社は、デジタル化の波に乗り遅れていませんか?

 本稿では2回に分けて、経済産業省の『2025年版中小企業白書』とIPA(情報処理推進機構)の『DX動向2025』の内容を基に、中小企業のDXの「現在地」「課題」、そして「今後の展望」を解説します。今回は、DXの進捗と課題を浮き彫りにする『2025年版中小企業白書』についてです。

「2025年版中小企業白書」に見るDXの進捗と実態

 中小企業白書は、中小企業のデジタル化の取り組みが初期段階では着実に進んでいることを示す一方で、真の経営変革としてのDXには大きな壁があることを浮き彫りにしています。

デジタル化の「量」は増加、DXの「質」は停滞

 紙や口頭での業務が中心の「アナログな段階(下のグラフの段階1、赤の部分)」にある企業は、近年大幅に減少し、最低限のデジタルツールを利用する企業が大多数となりました。これは、多くの企業がEメールや基本的なPCツールなどのデジタル化の第一歩を踏み出していることに間違いありません。

 一方で、その先に待ち受けるデジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化を目指す「DXの段階(下のグラフの段階4、青の部分)」企業の割合は、調査の母集団が異なりますが、この数年で増加しておらず、むしろ横ばいまたは減少傾向にあります。多くの企業が業務効率化に留まり、真のDXへ移行できていない現状が浮き彫りになっています。

 最低限のITツール導入は進むものの、その先の「企業文化とビジネスモデルを変革し、新たな価値を創出して競争力を強化する」という本来のDXへの移行を実現している企業は、ごく一部にとどまるのが現状です。

中小企業のDXを阻む3つの壁

 デジタル化の進展と裏腹に、中小企業ならではの問題が見えてきます。実際、中小企業の設備投資に占めるソフトウェア投資比率は7.3%と大企業(12.8%)の6割程度にとどまっており、デジタル分野への投資は依然として控えめです。

 DXに向けた取り組みを進める上で、特に大きな壁となるのが以下の3つです。
費用の負担が大きい: DXに取り組むには多額の初期費用やランニングコストがかかるため、資金力に乏しい中小企業にとっては大きなハードルとなります。
DXを推進する人材不足: 高度IT人材の獲得競争が激化する中、中小企業が自社で人材を育成したり、外部から採用したりするのは容易ではありません。その結果、せっかくITツールを導入しても使いこなせず、十分な効果を引き出せないケースも少なくありません。
経営者の「経営力」の課題: 経営者に権限と知識が集中しがちな中小企業では、トップがDXに消極的だと変革が進みません。中小企業白書では、経営者にないスキルを持つ補完型人材の確保や経営者の職務権限を分散させる「一人経営体制」の克服が重要だと指摘しています。
 これらの課題を放置すれば、大企業との生産性格差は拡大し、中小企業は競争力を失って人材や取引先を失う危険性があります。

DX推進の鍵を握る「経営力」とは

 なぜ、DXが進まないのか? その根本原因は、DX推進の根幹にある経営者の「経営力」にあると中小企業白書は強調しています。ここでいう「経営力」とは、ただ単に会社を回す力だけでなく、未来を見据えて新しい価値を生み出す力のことです。

 特に、以下の3つの要素が中小企業の成長を左右すると分析されています。
(1) 成長戦略の明確化
 明確な成長戦略を持つ中小企業は、売上や雇用の拡大につながる傾向が強いことが示されています。製品・サービスの差別化、業務の標準化、人材採用方針の明文化など、中長期的な視点での戦略策定が不可欠です。
(2) 経営者のリスキリング(学び直し)
 激変する経営環境に対応するためには、経営者自身が新たな知識やスキルを学ぶ「リスキリング」が重要です。経営者が率先して学ぶことで、従業員の意識改革にも影響を与え、企業全体の生産性向上につながる可能性があります。
(3) 適切な価格設定と設備投資
 人件費や物価の高騰が進む中、適切な価格設定と戦略的な設備投資が、中小企業の持続的な成長には不可欠です。白書では、競争力のある製品・サービスに適切な価格をつけ、DX関連の投資を積極的に行っている企業が、高い経常利益率と賃金を実現していると分析しています。

 これらの課題を乗り越えるには、経営者自身が「変わる覚悟」を持ち、長期的な視点でDXを捉え、社員を巻き込みながら一歩ずつ進める姿勢が求められます。

今後の展望

 中小企業白書が示唆するように、DXは単なるITツールの導入ではなく、企業文化と経営体制の変革です。人手不足や物価高といった課題に直面する中小企業にとって、DXはコスト削減や業務効率化だけでなく、新たなビジネスモデルを創出し、競争力を高めるための重要な手段となります。

 中小企業白書は、中小企業が持続的に成長するために、経営者主導でDXを推進し、組織全体の変革に取り組むことの重要性を強く訴えかけています。DXは、厳しい時代を生き抜くための「守り」の戦略であると同時に、未来を切り拓くための「攻め」の戦略でもあるのです。

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